EPISODE-2 辞令

「えっ、名古屋!?」 元々、4年制大学に通っていたが、どうしてもエステティシャンになる夢を諦め切れず、大学を辞めて、美容専門学校へ入学した。こうして、「ラ・パルレ」に入社し、ついに念願のエステティシャンに。 私の希望は新宿本店だった。忙しい店舗で成長したかったからだ。忙しい店舗でこそ、技術は磨かれると信じたからだ。 届いた辞令は、予想もしない「名古屋駅前店」。名古屋には学生時代にも行ったことさえ、なかった。人事からは「いま、あなたが一番成長しやすい環境だから」と。その理由を信じるしかなかった。

名古屋駅前店で、ついにエステティシャン・デビューした。先輩・・・プロフェッショナルの技術を目の当たりにすると学生の頃の自信は音を立てて崩れていく。 仕事が遅いのだ。私の自信喪失を、あたかも見抜いたかのようにシスターが声をかけてくれた。その日から、終業後に自主トレーニングが始まった。 みるみるうちに技術は上達した。まさか、プロのレベルに早々に達することが出来るほど壁は低くない。ひとつひとつ覚え、ひとつひとつ反復した。反復して、身体に覚えさせ、スピードを徐々に速めていく。毎日、その繰り返し。

十年が経って、プロのスピードになんとかなれてきた頃。2度目の辞令が手渡された。「えっ、名古屋駅前店から離れるの!?不合格なの!?」また期待は裏切られた。しかし、いい意味で。 新宿本店へ移動を命ず 人事から再び、連絡をいただいた。お客様のケアしても恥ずかしくないレベルに達したと聞きました。見知らぬ土地でもがんばって、心も逞しくなったそうですね。お店は替わっても、さらにトレーニングを続けてください。 名古屋駅前店の先輩たちから祝賀会に誘われた。何度、乾杯してもらっただろう。私は見てもらっていたのだ。ずっと見守られていたのだ。

新宿本店でのお客様の数は、名古屋店の比ではなかった。ますますスピードが求められた。また自信喪失しそうになる。 でも、私は負けない。 だって、私は「名古屋駅前店」の卒業生だ。先輩たちの分まで、がんばらないと。 自主トレーニング、今日も・・・さ、やるか。